目録へ  悶絶投稿へ戻る  作品の感想はこちらへ!


   第16章

幸い裏門の鍵はかかっていなかったので、扉をあけて美樹たちは道に出ることができた。ちらっと建物を振り返ると、今や敷地内はこうこうと明かりがつき、大勢の人間の声が聞こえる。
「美雪!こっちに行きましょう!」美樹たちは、教団に接している森の中に駈け込んだ。夜中なので、足元が見えず何度もころびそうになったが、今はひたすら遠くに行くしかない。修行服は動きにくかったが、その下は二人とも裸なので脱ぐわけにもいかなかった。美樹たちの背後でたくさんの懐中電灯の光が揺れている。美樹たちは必死に森の中を走った。

「あっ!先生!前のほうに明かりが見える!」美雪が叫んだ。と同時に車の走る音が聞こえてきた。
「道路だわ!」藪をかきわけて森を抜けると、国道に出た。見るとちょうどタクシーがこちらに走ってくるところだ。
「止まってぇ!」美樹が手をあげながら大声で叫んだ。タクシーが急停車した。運転手が驚いてこちらを見ている。
「美雪、乗るのよ!」美雪が転がり込むようにタクシーにのった。美樹が続こうとしたその時、
「あうっ!」美樹の体がふいに固まった。美樹の目が大きく見開かれる。これは・・・!。
「美雪!い・・・行くのよ!早く!車を出して!」美樹が顔だけを動かして必死の形相で叫んだ。
「先生!早く乗ってください!」そう言った美雪の顔が恐怖に歪んだ。森から園田や追手の男たちがばらばらと出てくる。
「美雪!私は動けないの!あなた一人で逃げて警察に通報するのよ!運転手さん、早く車を出して!」
「先生!」美雪の目から涙があふれた。タクシーのドアがばたんと閉じ、運転手も危険を感じたのか、車は急発進して夜の闇の中を遠ざかっていく。

「美雪・・・」彫像のように固まった姿勢のまま、美樹はタクシーの去った方角を祈るように見つめた。
「くっ、くっ、くっ・・・」ふいに背後から園田のふくみ笑いが聞こえてきた。
「惜しかったな・・・なかなかやってくれるじゃないか。まぁいい、あんな小娘など何もできんわ。だが、お前にはこの償いはしてもらうぞ。」
美樹の体はくるりと回れ右をして森の方角に歩き出した。園田はさすがに慌てて出てきたのか、パジャマの上にガウンひっかけたかっこうで立っていた。怒りで顔が醜くゆがみ、コントローラーをきつく握り締めている。その後ろで、数名の教団の男たちが肩で息をしながら、美樹をにらみつけていた。園田は他の男を先に返すと、端末に命じ、美樹を森のほうに歩かせて後ろから黙ってついてくる。
「あなたたちは何を企んでいるの?こんな恐ろしいことをして、許されると思っているの?」美樹は後ろを歩いている園田に言った。
「ふん、余計なことを考えるより、自分のことを心配するんだな。」

美樹の足は森の中を横切る小道のほうに向かった。ところどころにぽつんと街灯が立っているだけの薄暗い道だ。園田は後ろを歩いているようだが、少し離れてついてくるのか気配は感じない。美樹の足は勝手に森の小道にはいっていった。教団の建物を脱出してからずっと走りどおしだったので、修行着の裾が乱れていて、歩くたびに美樹の白い太ももまで剥き出しになるが、体をコントロールされているので帯を直すこともできない。襟も大きく開いて、2つの球のような美樹の乳房の谷間がさらけ出されていた。美樹は操られるままに、ロボットのように森の中を歩いていった。
「!」前方に街灯があり、数名の若者がその近くでたむろしている。汚れたTシャツを着て、髪を染めた外見を見ただけで、真面目な青年たちという類ではなさそうだとわかる。嫌な予感がした。

「おい、ヒロシ!酒回せよ!」
「おらよ。あ〜あ、つまんねぇなぁ。シゲ!お前の女とダチはどうしたんだよぉ。もう、待ちきれねぇぜ!」
「うっせぇ!そんなら自分で呼び出せ・・・おっ!」
深夜の公園をこちらに歩いてくる女を見つけて、若者たちは思わずぎょっとして腰を浮かした。肩まで届くストレートヘアをわずかになびかせて長身の女がゆっくりと歩いてくる。白い浴衣のような服をきているが、着物はだらしなく乱れ、白い乳房のふくらみや形のよい脚が歩くたびに見え隠れする。顔はこわばっているが、ためらうことなく若者たちのほうに近づいてきた。
「おい、マジかよ・・・。」「こりゃあ、ひょっとして痴女、ってやつか?」「・・・それにしてもすげぇ女だぜ。」若者たちがごくっと生唾を飲んだ。無理もない。こんな時間に、こんな場所でモデルのようなスタイルの美女が裸同然のかっこうで現れたのだ。

若者たちが見つめる中、美樹はぴたっと脚を止めた。よく見ると、唇がわずかに震えている。若者たちはゆっくりと美樹に近づいた。美樹の頭からつま先までを舐めるように眺めている。
「あ・・・あなたたち・・・私に近づかないで!」美樹が先に口を開いた。
「なんだぁ?てめぇからこっちに来たんだろうが。・・・へへっ、おれたちと楽しみたいってわけか?」
「私は操られているのです!警察を呼んでください!」美樹が叫んだ。
「へぇ?何、わけのわからねぇこと言ってんだよぉ。こりゃぁ、相当イカれてるぜ。ホントは男とやりたくてしょうがねぇんだろ?」若者たちはさらに美樹にぐっと近づいた。街灯の下に浮かび上がった白い肢体が、若者たちの欲情をぐつぐつと沸騰させつつあった。乱れた襟からのぞく豊満な乳房、薄い着物の上からもはっきりとわかる乳首の突起、首筋に汗で貼りついた髪すら濃厚な女の匂いを発散させている。

美樹の真正面にいた若者の右手に、突然、手品のようにナイフが現れた。きらっと刃が光を反射する。
「おい、ガタガタ騒ぐんじゃないぜ。」美樹の顔のほうにナイフを近づけながら、若者が顔をゆがめてにやりと笑った。
「う・・・」体が自由であれば、素人がナイフを振りかざしたところで、美樹の敵ではない。しかし、美樹の首から下はぴたりと動きを停止している。若者たちは、美樹がナイフに身がすくんで動けないと思ったのか、美樹の周りをぐるりと取り囲んだ。



 悶絶投稿へ戻る      戻る       進む